出張に行く場合、移動中は労働時間になりますか?
「出張」とは、一般的には、使用者に命じられた業務を処理するために、その指揮命令のもとに通常の勤務地以外で労働することをいいます。
たとえば、大阪に所在する事業場に毎日出勤する労働者が、日帰りまたは宿泊して九州に所在する得意先へ赴くようなケースです。
長期にわたる出張の場合、出張旅費規程に基づいて日当が支給されるのが一般的です。
目次
出張の移動時間が労働時間になる場合・ならない場合
「出張に関する移動時間」は、広い意味では会社の指揮・命令下で行動する時間ともとれますが、単に移動するのみであれば業務との関連性が低いため、労働時間には含まれません。
「労働時間」・・・使用者の指揮命令下にある時間のこと
実際に作業している時間だけでなく、作業の間の待機している時間(手待ち時間)も含まれる。
例:貨物の積み込み係が貨物用自動車の到着を待っている時間など。
公共交通機関を利用する場合
出張で新幹線やバスなど公共交通機関を利用して移動する際、これらに乗車中の時間について会社から特別な指示がない限り、労働時間としては扱われません。
移動の間は、読書や睡眠なども取れる自由時間であり、使用者の指揮命令下にはないとされるからです。
ただし、遠方への出張では拘束時間が長くなるので、その代価としての手当(出張手当、日当)を支給する企業も多くあります。
出張の目的が物品の運搬自体であるとか、物品の監視等について特別の指示がなされている場合には、単なる移動ではなく、使用者の指揮監督下にある状態といえます。
このような移動については労働時間に含まれるので、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えるなら時間外労働になりますし、法定休日であれば休日労働となります。
同行する上司と移動中に仕事の打ち合わせをするような場合は、その打ち合わせにかかった時間が労働時間と評価されます。
社用車を利用する場合
単に交通機関として社用車を利用して移動する場合は、運転による心身の疲労があるとしても、「労働時間としなくてもいい」とされています。
たとえ自らが運転していても、その移動の時間を自由に利用することができると考えられるからです。
単なる移動手段ではなく、得意先へ製品を届けるために社用車を使って運搬する、という場合には労働時間となります。
ただし、現実の場面では、両者の区別があいまいな場合も多いため、実態に即して判断されるでしょう。
出張中の休日は労働日として認められるか?
出張日程の途中に休日がある場合や、休日が移動日に当たる場合、その当日に用務を処理すべきことを明にも暗にも指示されていない限り、労働日にはなりません。
先に述べたように、用務の指示を受けていなければ使用者の指揮命令下にある時間=労働時間にはならないからです。
月曜日の朝からの会議のために、前日の休日に用務先に出張しても休日労働に該当しないし、用務先での業務終了後に夜行列車に乗車し深夜に帰着したとしても時間外労働にはなりません。
出張中の交通事故などは労災になるか?
労災保険法では、「業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害又は死亡」に関して保険給付を行うこととしています。
出張の場合は、事業主の管理下を離れ、出張者の個々の行為について事業主の直接的な指揮監督を受けていませんが、用務遂行のため事業主に対する責任を負い、出張の全過程において労働契約に基づき事業主の命令を受けて仕事をしているといえます。
そのため、事業主の支配下にあると判断され、仕事の場所はどこであっても、業務災害について特に否定するべき事情がない限り、一般的には業務災害と認められます。
泥酔して階段から転落したり、私的に映画を見に行ってその帰りに事故に遭うなどの「積極的な私的行為」を行って自ら招いた災害は、「業務上」とは認められません。
こういった場合には労災保険の給付を受けることはできません。
海外出張の場合も国内での出張と同様に、積極的な私的行為によって災害が発生したものでない限りは、一般の労災保険が適用されます。
休みなどのルールが所属地と出張先で違う場合はどこに合わせる?
通常の勤務地と出張先で労働時間などのルールが違う場合、出張者にはどの就業規則が適用されるのでしょうか?
本社に所属している社員が出張した場合、出張期間中の身分関係や賃金の支払い関係は変わりないので、業務遂行の場所が一時的に移ったに過ぎず、本社の就業規則が適用されることとなります。
仮に、出張先の始業時刻が8時で本社の始業時刻が9時である場合、始業時刻の違いによる1時間については早出=時間外労働として処理されることになります。
出張先で時間外労働をすれば、本社の就業規則(あるいは賃金規程等)に基づいて割増賃金が支払われます。
本社の所定休日に出張先で労働した場合は、本社の就業規則で定められた休日出勤の規定に従って取り扱いをしなければなりません。
出張時の労働時間については、事業場外みなし労働時間制」を適用するケースもありますが、出張に管理者が同行している場合や、出張先が例えば工場のような場合で管理者から具体的な指揮命令を受けられる場合には適用対象とはならず、時間外労働手当が支給されることになります。