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【社労士コラム】ハラスメント防止のためにおさえておきたいこと

社労士コラム
【社労士コラム】ハラスメント防止のためにおさえておきたいこと

2020年6月より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました。
ハラスメントの防止については、法律では「男女雇用機会均等法」にて整備されています。

職場のハラスメントがいけないことは分かっているけれど・・・

会社は、社員は、具体的に何をすればいいの?
ハラスメントを防止することで何が変わるの?

今日はそんな「ハラスメント防止」にまつわる話をしたいと思います。

ハラスメント防止は会社の義務

これまで、2007年4月にセクシャルハラスメント(以下「セクハラ」)の防止措置が義務化されたことにはじまり、2017年1月には、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント、いわゆるマタニティハラスメント(以下「マタハラ」) の防止措置が、2020年6月からは、パワーハラスメント(以下「パワハラ」)の防止措置が、それぞれ法改正により義務化となりました。

パワハラに関しては、中小企業は2022年4月までは努力義務となっていますが、きちんと法律で「ハラスメントはNO!」と明確にされているのです。

はじめの一歩はハラスメントについて「知ること」

法律で防止義務の対象となっているハラスメントは「セクハラ」「マタハラ」「パワハラ」です。

まずは、これらのハラスメントが

  • それぞれどういったものなのか(いわゆる定義)
  • どんな言動や行為がハラスメントに当たるのか

を知らなければ、未然に防止することは難しいでしょう。

例えば、「セクハラ」については、言葉も浸透しているし、何がセクハラになるのか(なる可能性があるのか)を知っている人は多いでしょう。
現に、「決してセクハラだと思わないでね」なんて前置きをしながら話を始める人もいるくらい、セクハラに関する認知度は高いのです。

「知っているからこそ未然に防げる。」と言えます。
それでもなくならない現状はありますが。

それでは、「マタハラ」はどうでしょう?
「マタハラ」はマタニティハラスメントの略なので、妊娠中の女性に対してのみ行われるハラスメントと思われがちです。

しかし、実は「マタハラ」という言葉には、妊娠のみならず、出産、育児、介護に関するハラスメントも含まれています。

嫌がらせ・いじめといった行為だけでなく、出産・育児・介護のために、社員が様々な制度を利用する機会が出てきた場合、その制度を使わせまいとする行為もハラスメントに当たります。
例えば、育児休業を取りたい社員に対し「育休は取らせない。産後休業明けすぐに復帰ができなければ辞めてもらう」と言って解雇するケースです。

ハラスメントだと知っていながら、わざと行うことはもちろん問題です。
しかし、こういったケースがハラスメントに当たるということを知らなくても、「知らなかった」では済まされません。

ハラスメントの受け手に不利益を与えてしまうことになり、降格・減給・解雇となれば本人の地位や経済面に大きく影響します。
取り返しのつかないことにもなり兼ねないので、十分に注意が必要です。

「パワハラ」についても同様です。
パワハラについては、代表的な類型は6つと定義されています。
「パワーハラスメントの定義について」厚生労働省

6つのタイプがそれぞれどんなハラスメント行為なのかを具体的に知り、防止するとともに、自らが行為者となってしまわないように心がけることが求められます。

まずは「知ること」。
それぞれのハラスメントの特徴や定義を理解することから始めましょう。

ハラスメントは認知されて初めて顕在化する

ハラスメントについて知れば、理解すれば、自然とハラスメントのない職場になるのでしょうか?

答えは「NO」です。

2019年の都道府県労働局での相談件数では、セクハラに関する相談が7,323件、次いで婚姻、妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)についての相談が2,131件。育児休業・介護休業等の、いわゆる「制度利用」に関するハラスメントや不利益取り扱いについての相談件数は合計で11,699件に上っています。

「ハラスメントを知ることで防止できる」と先に述べましたが、実はハラスメントを知れば知るほど、認知されればされるほど、労働局への相談件数は増えていくのです。
データを見ると、今は、セクハラよりもマタハラに関連する相談件数の方が上回っていることが分かります。

そもそも、どういった行為や言動がハラスメントに当たるのかを知らなければ、ハラスメントの事実はそのままスルーされてしまいます。
知識や認識が不足しているために、誰かに相談したり会社に問題提起することをためらえば、ハラスメントの受け手がただ泣き寝入りして終わり、何も対処されないままになってしまいます。
そうするとハラスメントは会社に残存し、発見されることも解決されることもなく、残念ながら職場にハラスメントが蔓延(はびこ)り続けることとなります。

しかし、昨今では防止措置の義務化もあり、セクハラ、マタハラ、パワハラ問題がニュースに取り上げられ、社内外の講座やセミナーでハラスメント防止研修が開催される機会も増えました。
私もマタハラ防止セミナーの講師として全国に呼ばれるようになったのは2017年頃からで、具体的な話や防止方法が知りたいという会社や管理職の声が多く聞かれるようになりました。

こうしてセクハラ以外のハラスメントも徐々に認知されるようになり、世の中に浸透していくことで問題が顕在化し、労働局の相談窓口に駆け込む人が増えるという結果に繋がったのです。

それでは、ハラスメントを知ることで顕在化した問題に対して、会社はどのように対処すれば良いでしょうか?

ハラスメント防止のために会社が行うべき防止措置4つ

ハラスメント防止のため、会社の義務として課せられている措置は4つあります。

  • ハラスメント防止等の指針を明確にし、社内で周知・啓発
  • 相談窓口を設置し、相談に応じ適切に対処する体制を整備
  • ハラスメントが起こってしまったら、迅速かつ適切に対応
  • その他併せて講ずべき措置(プライバシー保護など)

これら全ての項目を必ず行うことで、はじめて会社は防止措置の義務を果たすことになります。

具体的な例を紹介していきましょう。

防止指針の明確化・周知・啓発

リーフレットの作成・配布、ポスター掲示、研修の実施により、会社のハラスメント防止に関する指針を、全ての社員に周知させます。

どのような行為がハラスメントに当たり、それらを行ってはいけないということを明文化します。そして就業規則にハラスメント禁止の条文を加え、禁止事項を列挙し、ハラスメントが起こった際の対処方法や行為者への処分(懲戒規程に盛り込む)について具体的に示します。出来上がったら全社員へ周知させます。

実はこの「周知」がミソなんです。

余談かもしれませんが、就業規則は社内のいわば「ルールブック」です。
「規程を作ったからもう安心」ではなく、全社員に周知させることで初めて効力が発揮されるものなのです。
社員が内容を確認したい時、いつでも見ることのできる場所になければなりません。

みなさんは、ご自分の働く職場の就業規則がいつでも閲覧できるところにありますか?一度は中身を見たことがありますか?
是非、確認してみてください。

相談窓口の設置と対処体制の整備

社員が相談しやすい相談窓口を設置し、しかもできるだけ初期の段階で気軽に相談できるしくみを作ります。

管理職や一般社員の中から担当者を選任し、問題が決して見過ごされることなく、「鉄は熱いうちに打つ」べく、大きな問題になる前に解決できるようにします。
これも就業規則と同様、「相談窓口を設置したから大丈夫」ではなく、実際に機能させましょう。

「話を聞く」だけでなく、相談があった際は、相談内容の事実があったかどうかの調査も必要になります。
相談した人や事実確認に協力した人のプライバシーは必ず守り、誰もが安心して相談できる窓口であることが大前提です。

迅速かつ適切な対応

まず初めに、ハラスメントが起こった事実確認を行います。行為者、第三者へのヒアリングです。

事実確認の後の具体的な対応については、社内にハラスメント委員会を設置して問題を検討・協議し、対応策を講じるようにします。
対策委員会を設ける組織づくりもハラスメント解決には有効です。

ハラスメントの行為者に対する措置を適切に行うと同時に、行為を受けた社員への配慮、心のケアなども必要です。
社内で解決できない場合は、リファー(=より適切な専門機関や専門家への紹介)として、外部の専門機関に繋ぎ、支援を求めるルートの確保も考えましょう。

その他の措置(プライバシーの保護)

被害相談をした社員のみならず、事実確認を行うために話を聞いた他の社員のプライバシーも守ります。

相談や事実確認に協力したことをもって、相談者や協力者に不利益な取り扱いを行うことは禁止されています。

万が一ハラスメントが起こった場合には

事実確認 → ハラスメント委員会による協議 → 判定・対応策の実施 → 解決 → 再発防止 という流れに沿っていきます。

被害にあった社員が問題の解決後も就業し続ける場合は、行為者にきちんと謝罪させ、被害者との関係改善に協力援助します。
被害者不利益を回復し、必要であれば行為者と切り離すための配置転換、就業環境の回復を行い、被害を受けた社員が安心して快適に働き続けられる環境を整えます。

行為者には就業規則に基づく処分を行います。
例えば、行為の程度や内容によりますが、出勤停止、降格、減給、配置転換などです。
行為者に重大な違反があった場合や相談者に多大な被害がおよんだ場合は、懲戒解雇も考えられます。

起きた問題を解決して終わりではなく、再発防止に向けた措置も忘れず講じることも義務付けられています。

ピンチはチャンス!

実例を教訓に、ハラスメントを二度と起こさせない職場作りを目指しましょう。
これには、一度きりではなく、定期的な社内ハラスメント防止研修が有効です。

また、ハラスメント防止について、社内の担当窓口以外にも、外部の専門家(社労士など)や労働局、労働基準監督署の総合労働相談コーナーなどを活用しながら職場の体制づくりを行うことも一つです。

いくらプライバシーが守られているとはいえ、社内の相談窓口にはなかなか言いづらい、一歩が踏み出せない場合もあります。
そんな時は、外部の機関の相談窓口も活用しましょう。

みなさんの会社では、これらのハラスメント防止措置はもうお済みですか?
措置が十分でない場合、重大なトラブルを引き起こす危険性があります。

当事者だけでなく会社全体にもハラスメントの影響は大きい

会社でハラスメントが起こっても、それは当事者(行為者と受け手)同士の、いわば「個人間」の問題だけであると思っている人はいらっしゃいませんか?

実は、そうではありません。
ハラスメントが起こることで、会社の労務管理や就業環境にまで悪影響が出てしまいます。

例えば、ハラスメントを受けた人が心身ともに傷つき、休職したり辞めてしまったら職場はどうなるでしょうか。
ただでさえギリギリの人員で毎日手持ちの仕事がいっぱいなのに、そこでさらに人が抜けてしまったら、「明日から辞めた人の分、誰が業務をカバーするの?」と、たちまち残された社員に負担がかかってしまいます。

辞めた人が優秀な人材だった場合、会社にとっても大ダメージとなります。
すぐに次の人材が見つかるかどうかも分かりません。求人を出すための出費も必要になるでしょう。

もし新しい人が見つかったとしても、その人は、よほど同じような仕事の経験者でない限り、一から仕事を覚えなければならず、これまでの人と同じような戦力にはすぐにはなれないでしょう。

当然、新しい人に業務を教えて「育てる」時間も必要になります。
教える立場の人は新人教育に手が取られてしまい、抜けた人の業務を回すどころではなくなってしまいます。

そして残りの社員は、これまで以上に日々の業務に追われ、疲弊します。
イライラした気持ちから再びいじめや嫌がらせが発生し、本来協力し合うべき社員同士が足を引っ張り合う、なんてことも起こってしまうのです。

ハラスメントは職場にあらゆる問題を引き起こす

いじめや嫌がらせ、仲間はずれ、仕事を与えない、能力以上の仕事をわざと押しつける、といったハラスメントが職場に蔓延(はびこ)ると、当然人間関係もギクシャクします。

仕事をする上での基本となる「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)もままならなくなり、業務がスムーズに運ばなくなります。
生産性が落ちると、ミスの発生や納期の遅れなど、仕事の成果にも影響が出るようになります。
売り上げが落ちて業績悪化となれば、会社の信用問題や存続の危機にも繋がり、もはやハラスメントだけの問題ではなくなります。

また、人が辞める問題は、「ハラスメントの行為者が職場の懲罰規定により解雇される」、「受け手が心身ともに病んで辞めざるを得なくなる」ケ-スだけではありません。

ハラスメントの存在は、会社に残った意欲のある人たちのモチベーションまで下げてしまいます。
ハラスメントの当事者でなくとも、ハラスメントのなくならない職場に愛想を尽かし、本来なら何事もなく働き続けられた人が、ひっそりと当たり障りのない理由で去っていくこともあるのです。

つまり、ハラスメントに対処をせず、問題を放置し、見過ごされている職場には、何一つ良いことはないのです。

ハラスメントは、当事者だけの問題ではなく、職場環境、人材、業績など、あらゆる問題を引き起こす原因であることがお分かりいただけたかと思います。

ハラスメント防止は働きやすい職場づくりにつながる

「ハラスメントを起こさせない職場環境」を目指すということは、同時に、「誰もが働きやすい職場環境」をつくることを意味します。

ハラスメントのない職場はもちろんのこと、誰もが快適に、気持ちよく仕事ができる環境が保持されれば、生き生きと働き続けることができるのではないでしょうか。

そのための最も大切な要素は、以下の3点が挙げられます。

  • 良好な人間関係
  • 円滑なコミュニケーション
  • 一緒に働く人への気配り・相互理解

(独)労働政策研究・研修機構による『人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査』の正社員調査では、「働きやすさの向上のために重要な雇用管理の取組」は「職場の人間関係やコミュニケーションの円滑化」であると考える人の割合が最も多くなっています。

女性については「仕事と育児との両立支援」、年齢が上がれば「仕事と介護の両立支援」「仕事と病気治療の両立支援」なども重要だと考える人が多くなっています。
2019年厚生労働省「労働経済白書」

このような調査結果からも、良好な人間関係が保たれる職場にハラスメントは言語道断

「常に会社には自分とは立場の異なる様々な人がいて、その人たちと一緒になって働いているのだ」

という意識を持つこと。

ライフステージ(独身、子育て、介護、病気治療中など)の違いや家庭生活の事情を互いに理解し尊重し合うことと、ちょっとした気遣いができること。

これらが何よりも大切なのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
ハラスメント防止のために心がけていただきたいことをこれまでお伝えしてきました。

ハラスメント防止について考え、社員一人ひとりが意識すること

それは、自分が働く職場環境そのものを考えること

ハラスメント防止に取り組むことは、働きやすい職場とは何かを教えてくれるヒントとなります。そして、ハラスメントを「自分には関係のない他人事」であると思わずに、「会社」という組織の担い手である全ての社員で一丸となって取り組むべき課題であるということを忘れないでください。

誰もが働きやすい職場づくりのヒントとして、ハラスメント防止にもしっかり目を向け、気持ちよく仕事のできる環境をみんなで作っていきましょう。

執筆

社会保険労務士法人 岡本&パートナーズ 共同代表社会保険労務士 山本美紀

ホームページ:社会保険労務士法人「岡本&パートナーズ」|大阪府豊中市 (sr-toyonaka.com)

大阪府社会保険労務士会所属。国家資格キャリアコンサルタント。

営業社員、NPO職員、中学高校の英語教師、大学秘書等を経て社会保険労務士に。
大学の授業や行政のハラスメント防止セミナーに登壇。実体験も踏まえ、マタハラを中心としたハラスメント防止の啓発活動を行っている。また、歌う社労士ユニットShallow Seaとして、労働・社会保険諸法令、助成金、働き方改革などのオリジナルソングを歌い、YouTubeやSNS、ライブなどでも活動中。

著書
ひよこの学習塾-社労士教室-編著「社労士の仕事カタログ」中央経済社