【社労士コラム】就業規則の作成は何のため?法律・制度から見た就業規則

【社労士コラム】就業規則の作成は何のため?法律・制度から見た就業規則

就業規則は、従業員が10人以上(パート・アルバイト等含む)の会社(法人・個人事業含む)において、作成と届出が義務付けられています。

10人以上の会社では、当然、作成・届出はしていますよ、という所が多いでしょう。
10人未満でも作成している会社もあるかと思います。

就業規則は、経営者や人事労務担当の方にとっては大変身近なものです。

今回は、就業規則を様々な角度から見ることで、改めて企業労務における就業規則について考えていきましょう。

就業規則を作成する目的

就業規則を作成する目的を考えると、概ね下記の3つに分けられるのではないかと思います。

  1. 届出の義務があるから。委託・補助事業のために行政に提出が必要なため。
    … つまり、会社として就業規則をあまり主体的に考えていない
  2. 従業員とのトラブルであっせんや裁判になった場合の事を考えて、会社が不利な立場に立たないようにするため。
    … 主に、リスク管理を目的とする
  3. 会社と従業員とのコミュニケーションを促進し、働きやすい職場や組織にするため。
    … 主に、明快な職場のルールや制度を作り、従業員に分かりやすく明示する

皆さんの会社では、どのような目的で就業規則を作成していますか?

多分、2と3の両方であり、そのバランスや重点の置き方が、会社によって少しずつ違っているのではないでしょうか。

就業規則の法的規範性

就業規則の法的規範性とは

就業規則には、以下のような法的効力が裁判例によっても認められています。

「…労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる習慣が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている。」「…当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用をうけるものというべきである。」
(最大判昭和43年12月25日 秋北バス事件)

この判例は、2008年3月施行の「労働契約法」第7条に引き継がれています。

労働契約法 第7条「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。…」

つまり、合理的な労働条件を就業規則で定めれば、会社は必ずしも従業員の同意を得る必要はなく、過半数代表の意見を聴いて労働基準監督署へ届け出ることで「法的規範性」を得ることができます。

法的規範性とは、残業命令や懲戒処分等を行う場合や、会社または従業員がそれぞれの利害の主張を行う際の法的な基準や根拠となることです。

就業規則は、その規定内容が合理的であることを前提として、法的規範性が認められます。
就業規則における労働条件や福利厚生も法的規範性を持つため、従業員に対してその適用を約束していることになります。

では、そうした就業規則を変更して、労働条件を変える(例えば、切り下げる)ことについてはどうでしょう。

労働条件の不利益変更

就業規則は、過半数代表の意見を聞いて変更を届け出れば、その就業規則は法的規範性を持つので、労働条件の切り下げも難なく可能である、と思われるかも知れません。

しかし、就業規則の改定による労働条件の一方的な不利益変更は認められていません。

労働契約法 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)では、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と規定されています。

(ただし、第10条にあるように「変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」は変更が認められます。)

ただ単に、労働条件を切り下げるために就業規則を変更しただけでは、労働条件の切り下げ(不利益変更)は認められません。

このように、就業規則は企業経営にとって、非常に重要なものであることを再確認いただけたでしょうか。

就業規則と労働環境の改善

副業・兼業と就業規則

国は、柔軟な働き方の拡大やキャリアアップの支援を目的に、副業・兼業を推奨しています。
ただし、副業・兼業にはいくつかの留意点があります。

厚生労働省のパンフレット『副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説』では、「副業・兼業を行うことで、長時間労働になり労働者の健康が阻害されないよう、過重労働を防止することや健康確保を図ること」の重要性が指摘されています。

また、厚生労働省は2018年にモデル就業規則の改定を行いました。

【副業・兼業の留意点】

  • 労働時間管理に関して、時間外労働の割増賃金の支給や36協定はどのように定めるのか
  • 時間外労働に関連して、労働者の健康管理をどのように取り扱うのか
  • 企業情報の漏えいや競合企業との関係をどう規制するのか
  • そもそも副業・兼業は許可制か届け出制か、手続きはどのようにするのか

上記の留意点について、それぞれ就業規則に定めておくことが求められています。

テレワークと就業規則

新型コロナウイルス感染予防としてのテレワークが広がっています。

テレワークには、出退勤や労働時間管理をどうするのか、仕事の指示や評価をどうするのか、通信費その他の費用負担はどうするのか、など様々な課題があります。

厚生労働省の『テレワークモデル就業規則~作成の手引き~』では、テレワーク勤務を導入する場合、一般的には、就業規則に次のことを定める必要があるとされています。

  • テレワーク勤務を命じることに関する規定
  • テレワーク勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規定
  • 通信費などの負担に関する規定

なお、通常勤務とテレワーク勤務の労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができるとしています。
また、就業規則そのものは変えず、テレワーク勤務規程を定めて附記とする方法もあります。

新型コロナに関する助成金と就業規則

新型コロナに関連して、雇用分野の助成金の活用が広がったり、新たな助成金が設けられています。

助成のための要件の一つに、基本として就業規則での規定を行うというものがあります。
これは、就業規則に規定することで従業員が利用できる制度であることを明示し、対象者が利用しやすくなることを目的にしていると思われます。

例えば、新型コロナに関する助成金として「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」や「新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇取得支援助成金」があります。

どちらの助成金も、対象者である従業員に対して、特定の有給休暇(労働基準法上の年次有給休暇を除く)を取得させた会社が助成の対象となります。

従業員が常時10人以上の会社において新たな休暇制度を設けた場合、労働基準法に基づいて遅滞なく就業規則を変更し、所轄の労働基準監督署に届け出なければなりません。

パワハラ防止、ハラスメント対策と就業規則

2019年の「労働施策総合推進法」の改定(パワハラ防止法)で、大企業では2020年6月1日からパワハラの防止対策が義務付けられました。

中小企業においては、2022年4月1日からの義務付けになります。

都道府県労働局雇用環境・均等部(室)リーフレット『2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!』には、会社が必ず講じなければならない措置が挙げられています。

その一つとして、「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」があります。
その中で、会社は「行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定」することが求められています。

育児・介護休業法と就業規則

仕事と家庭の両立支援を目的に、「育児・介護休業法」(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)によって、育児休業・介護休業の制度が定められています。

会社は育児・介護休業に関する規定を定め、法律に沿った運用をすることが求められます。
また、休業は「休日、休暇」に該当するため、就業規則への記載が必要です。

厚生労働省のパンフレット『就業規則への記載はもうお済みですか‐育児・介護休業等に関する規則の規定例‐』では、「就業規則における育児・介護休業等の取扱い」を3つのポイントで説明しています。

(ポイント1)
「育児・介護休業、子の看護休暇、介護休暇、育児・介護のための所定外労働、時間外労働及び深夜業の制限並びに所定労働時間の短縮措置等」(以下「育児・介護休業等」)に関する規定を就業規則に記載すること。

(ポイント2)
ポイント1で記載した就業規則の規定のうち、「育児・介護休業法の条件を下回る、より厳しい条件を設けた取り決めをした」部分は無効と解されること。

(ポイント3)
「育児・介護休業等に関して必要な事項を就業規則に記載した際には、これを所轄の労働基準監督署長に届け出る」こと。

介護職員処遇改善加算と就業規則

介護保険法に基づく介護事業所の介護職員等に対し、その賃金アップを図るために、国は「介護職員処遇改善加算」制度を実施しています。

その加算を受けるための要件の一つに「キャリアパス要件」があります。

キャリアパス要件には3種類あり、その中でも、介護職員の任用時の職位(役職)・職責・職務内容に応じた任用等の要件と賃金体系について定めておくことを要件とする「キャリアパス要件Ⅰ」と、介護職員の昇給に関する仕組みを設けることを要件とする「キャリアパス要件Ⅲ」では、それぞれの内容について就業規則等の根拠規定を書面で明確にし、すべての介護職員に周知することが求められています。

懲戒処分と就業規則

労働契約法において、会社が従業員を懲戒するとき、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、権利を濫用したとして、その懲戒処分が無効となります。

そのため、権利の濫用とならないために、以下の点に留意しなければなりません。

  • 就業規則に懲戒事由が記載されていること
    処分を行う事由を就業規則に定める必要があり、記載のない事由で処分できません。
  • 就業規則に定めた懲戒処分の種類であること
    就業規則に処分の種類を明記しなければならず、定めのない処分は行えません。
  • 行為に対する懲戒処分が妥当であること
    従業員の行為に対する処分の程度が適当でなければなりません。
  • 就業規則等で規定された懲戒処分の手続きを守ること
    就業規則に処分の手続きを規定している場合、必ずその手続きを取る必要があり、本人に弁明の機会を与えることも必要です。

就業規則と罰則

会社が従業員を一人でも使用(雇用)する場合、守るべき労働関係の法律があります。

もし違反をすると、労働基準監督署等からの指導に留まらず、懲役や罰金等を科されることがあります。

就業規則に関する罰則規定を、労働基準法で再確認しましょう。
違反した場合の罰則内容は、30万円以下の罰金です。

【労働基準法 第89条(作成及び届出の義務)】

常時10人以上の従業員を使用する会社は、「就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。」と規定されています。

さらに、就業規則に記載すべき「絶対的必要記載事項」として、以下の3つが定められています。

  • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
  • 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
  • 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

これらの項目を欠いた就業規則は違反となり、罰則が適用されます。

また、「絶対的必要記載事項」とは別に、会社で定めている場合に記載が必要となる「相対的必要記載事項」があります。

  • 退職手当に関する事項
  • 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
  • 食費、作業用品などの負担に関する事項
  • 安全衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰、制裁に関する事項
  • その他全従業員に適用される事項

これらは、会社で定めているのに就業規則に記載していなかった場合、違反となります。

【労働基準法 第90条第1項(作成の手続)】

会社が就業規則の作成または変更をする場合、「労働者の過半数で組織する労働組合」または「労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。」と定められています。

この規定への違反では、労働組合がない場合の「過半数代表者」に注意が必要です。

過半数代表者は、会社が指名することも管理監督者がなることもできません。
協定締結のための代表者選出であることを周知した上で、従業員の挙手や投票などで選出する必要があります。

まとめ

以上のように、就業規則は、従業員を使用して事業を行う民間事業者において、非常に重要な位置づけになります。

従業員が10人以上になった場合の作成と届け出義務があるから、行政の委託事業や補助事業に参加するための必要帳票だからという理由で、通り一遍に形があれば良いというものではありません。

また、就業規則に法的規範性があるからといって、従業員との考えられる限りのトラブルが発生した場合を想定し、会社を守るために詳細な規定を準備しておけば安心、というスタンスも推奨できません。

就業規則を作成する際は、従業員との良好な関係による事業運営の安定を目的に、職場運営のルールを決定します。
そして、どういう場合にどういう福利厚生や活用できる制度があるのか、分かりやすさなども考慮して、就業規則のボリュームや章立て、表現などを工夫することが大切です。

執筆
岡崎社会保険労務士事務所社会保険労務士 岡崎 晃
ホームページ:http://www.roum-kenkyu.jp 厚生労働省「働き方改革推進支援センター」派遣専門家。
社会福祉士・精神保健福祉士。
民間企業において、営業、広報、人事労務、物流、情報システム、介護など部門の管理職として、事業・経営・人事に携わる。65歳で退職と同時に社労士事務所を開業。
労務相談や人事制度設計、助成金活用提案等を得意としている。
感想・ご意見は:info@roum-kenkyu.jp
本文の内容は執筆時点のものです。その後の法改正などは反映しておりません。
この記事をシェアする