1. コラムTOP
  2. 社労士コラム
  3. 【社労士コラム】仕事生活・家庭生活の両立のために・・・育児・介護休業法とは?

【社労士コラム】仕事生活・家庭生活の両立のために・・・育児・介護休業法とは?

社労士コラム

【社労士コラム】仕事生活・家庭生活の両立のために・・・育児・介護休業法とは?

前回のコラムで「育児・介護休業法」の改正について書きました。
今回は、「育児・介護休業法」の主旨や法改正でない部分の概要、休業中の所得保障等についても触れます。

日本の少子高齢化と出産・子育てをめぐる意識調査からみる現状

日本は2020年で、年少人口と呼ばれる0歳から14歳までの人口割合が全体の12.0%、生産年齢人口と呼ばれる15歳~64歳が59.3%、65歳以上は28.8%となっており、少子高齢化が進んでいます。
加えて出生数も低下し、いわゆるベビーブーム期には年間200万人以上だった出生数が2019年には86万5239人となり、今や100万人を割っています。

また、出産・子育てをめぐる意識調査では「理想的な子どもの数」は2.32人で、実際に持つつもりの子どもの数も過去最低の2.01人(2015年)となっています。

この理想的な子どもの数を下回る回答をしている人の理由には、
「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」
が最も多く、子どもを2人以上産み育てていくには、経済的な面を懸念する夫婦が多く、子育てをしながら働き続けることが必要なのではと感じていることがうかがえます。

出産前後の就業をめぐる状況はというと、かつて、第一子の出産を機にこれまでの仕事を辞めていた女性が6割もいましたが、2014年には5割を切り、第一子を出産してもそのまま仕事を継続する女性がわずかながら逆転してきました。

しかし、仕事を辞めた女性の理由はというと、

  • 「仕事と育児の両立が難しい」
  • 「育児と両立できる働き方ができなさそうだった」
  • 「勤務時間が合いそうになかった」
  • 「職場が両立支援をする雰囲気ではなかった」

と、いずれも育児をしながらの仕事の継続が現実に行えそうになかったために諦めた人が多いことが分かります。(令和3年版 内閣府「少子化社会対策白書」

子どもを安心して産み育てながら仕事が続けられる社会の実現

前述のような結果から、たとえ、子どもを産み育てながら仕事も続けていきたいと願う人がいても、安心して「仕事と家庭の両立」が図れない現実がまだまだあります。

「子育て(あるいは介護)か仕事か?」の二者択一が迫られる社会ではなく、そのどちらもを実現できる社会の整備をしていかなければ、会社は働き手を失い、人手不足を招き、会社の成長や活力の維持にも影響していく重大な問題に日本は直面しているのです。

そこで、働く人たちが本当は仕事を続けたいのに、「出産・子育て」または「介護」を理由に退職せざるを得なくなる事態を防ぎ、子育てや介護のライフステージにいても仕事との両立が図れるようにと整備されたのが「育児・介護休業法」です。さらにこの法律は、労働者の雇用の継続を図るとともに、日本の経済と発展に繋がることも目的としています。

育児休業制度とは?

育児休業をすることができるのは、原則1歳未満の子を養育する社員です。

日雇いの人、そして有期労働契約により雇用される人で、子どもが1歳6ヶ月になる日までに労働契約が終了する人は除かれますが、女性のみならず男性も休業することができます。

育児休業の取れる期間は、原則として子どもが生まれた日から1歳に達する日まで、社員が申し出た期間となります。「1歳に達する日」というのは、子どもの誕生日の前日のことを指します。
出産した女性は、通常産後8週間は「産後休業」期間となるため、産後休業の翌日からが育児休業となります。

とはいうものの、子どもが1歳になったら育児休業を即座に終了・・・とはならないケースがあります。
たとえば、いわゆる「保活」が上手くいかず、子どもを保育園に預けたかったのに預け先が見つからず「待機児童」となってしまった場合や、次の子どもの産前産後の期間である場合などです。

この場合は、子どもが1歳6ヶ月に達する日まで、育児休業を延長することができます。
さらに子どもが1歳6ヶ月になった時点でも、保育園に入れない等引き続き休業が特に必要だと認められる場合は、2歳になるまでの延長も可能です。

ただし、有期雇用契約で働く人については、子どもが2歳に達する日までの期間に雇用期間が満了にならないことが条件になります。

育児休業の申し出は?

育児休業の期間については、社員が希望通りの日から休業できるように、原則として休業開始日の1ヶ月前までに申し出ることが必要です。

前述の育休の延長理由が発生し、1歳6ヶ月、または2歳まで休業期間を延長する場合は、それぞれ、子どもの1歳の誕生日の前日の2週間前、1歳6ヶ月に達する日の翌日の2週間前までに会社に申し出る必要があります。

社員が育児休業を申し出た場合、会社は拒むことはできず、必ず社員の希望の期間を休業させなければなりません。ただし、上記の申し出期日までに社員が育児休業の申し出を行わなかった場合についてのみ、会社は社員の休業開始日を遅らせて指定することできます。

たとえば、休業開始日が9/10だったとしたら、社員は本来ならば1ヶ月前までの8/10までに申し出なければなりません。しかし、その社員が9/1に申し出をしてきたとします。この場合、会社は、社員が申し出た9/1から1ヶ月経過日である10/1までの間で、休業開始日を指定することができます。

つまり、社員は9/10から育児休業を取りたかったけれども、申し出が遅れたがために、9/10からは育休がスタートできず、9/10から10/1までの期間で会社が指定した日からしか休めなくなります。
本来の休業開始予定日から遅れて休業することとなります。

休業終了日と復帰のタイミングは労働者に委ねられている

育児休業の開始日は、社員の休業の申し出が遅れた場合に限り会社が指定することができますが、休業の終了日についても、会社が早く休業を切り上げさせて復職させることはできません。
また、当初予定していた休業の開始日と終了日の変更については、休業期間が長くなるような変更であれば1回に限り社員は申し出ることができます。

育児休業は最長2歳まで取ることができますが、社員のキャリア形成の観点から、休業が長くなればなるほど、いわゆる「ブランク」ができてしまうこともあります。
そのため、復帰のタイミングは会社と社員で十分に話し合うことが大切です。
時にはその「ブランク」ができてしまうことが、育休をとる社員にとってはマイナスに働いてしまうことがあるかもしれません。

育児休業の期間を縮め、社員本人が意図しない早期復職を会社が一方的に進めることは、育児休業等に関するハラスメント(「マタニティハラスメント」)に該当してしまう恐れがありますが、社員のキャリアを考え、「早めに復帰してはどうか?」という形で促す場合についてはハラスメントに該当しません。

いずれにせよ、育児休業の開始と復帰のタイミングを決めるのは社員本人になります。
休業期間中の業務の洗い出し、復帰する時のスケジュール、復帰後の日々の業務等についても十分に計画を練り、不利益取り扱いにならないように留意しましょう。

両親がともに休業する場合の特例=「パパママ育休プラス」

両親が共働きでパパもママも育児休業を取る場合、育児休業の対象となる子どもの年齢が原則1歳になるまでのところ、1歳2ヶ月になるまでの2ヶ月延長される特例があります。
これを「パパママ育休プラス」と言います。

この制度を利用することで、例えば両親が同時に育児休業を取ることもできるし、二人がバラバラに取ることも可能です。

産後8週のママが大変な時期にパパが育児休業を取り、そこからママだけが育児休業を取り、子どもが1歳に達して、そろそろママが復職の準備をしなければならないというタイミングで、パパが再び育児休業を申し出て、子どもが1歳2ヶ月になるまでの2ヶ月間にパパが「イクメン」となり、ママは職場復帰に専念して調子を整える、というようなスケジュールを組むこともできます。

介護休業制度とは?

一方の介護休業についても少し触れておこうと思います。
介護休業をすることができる社員は、「要介護状態」にある家族を介護する人です。

「要介護状態」とは
病気やケガ、精神上の障害などで2週間以上にわたって常に介護が必要な状態を言います。

《家族の範囲》

  • 配偶者
  • 子ども
  • 両親(自分の両親と義理の両親)
  • 祖父母(自分の祖父母に限る)

育児休業の期間は子どもが1歳になるまででしたが、介護休業の場合は、休業した日から通算で93日が上限となります。

有期雇用契約で働く人は、休業取得予定日から93日が経ち、そこからさらに6ヶ月が経つまでの間に雇用契約が終了してしまう場合は介護休業が取れないので注意が必要です。

介護休業の申し出期間は?

社員は介護休業を始める予定の日の2週間前までに会社に申し出ます。

この申し出が遅れると、育児休業のところで述べた通り、会社が休業開始日を指定する(遅らせる)ことができます。

介護休業は一度に93日取っても良いですし、通算93日になるまで3回まで区切って取ることもできます。

育児休業も介護休業も復帰が前提の制度

育児休業も介護休業も、「雇用の継続」「仕事と家庭の両立を図る」ことを目的にしているため、どちらも休業期間が満了になれば職場復帰することが前提となっています。

子育ては、子どもの成長とともに育児が楽になってきたり、保育園が見つかることで職場復帰しやすくなったり、復帰の目処や復帰後の仕事のプランも立てやすいのですが、介護はなかなかそうはいきません。

家族の介護状態というのは、その程度が重くなることはあっても、ある日突然フルタイムで復職できるほど介護が不要になったり、状況が軽減するということは少ないからです。
介護により結局は離職せざるを得なくなるケースは多いのです。

そういった意味では、介護休業の期間というのは「自分が会社を休んで介護を行う期間」という位置づけのみならず、「仕事と介護を両立させるための体制を整える期間」とも捉えられています。
介護保険サービスの利用先を探したり、支援機関に相談するなど、仕事を辞めずに介護もするための「準備期間」としましょう。

休職期間中の所得保障と社会保険料の免除

「育児・介護休業法」に基づき、要件を満たす人は休業できますが、会社を休んでいる間の生活保障や社会保険料が気になるところです。

会社からは「ノーワーク・ノーペイの原則」により、休んでいる間、給与は出ません。
その時に活用できるのが雇用保険や健康保険です。

産前産後の所得保障は健康保険から出る「出産手当金」

産前産後の休業期間については、健康保険から「出産手当金」が支給されます。

これは、健康保険に加入している人が対象になるので、パートやアルバイトでも週に30時間以上働いている人は受け取ることができます。

産前 出産日以前42日(多胎妊娠の場合は98日)
産後 出産日の翌日以降56日

産前については、予定日の42日前に産前休業を取る人もいれば、体調も良いしということで予定日ギリギリまで働く人もいるため、産前の出産手当金の対象日数は人によって異なります。

受け取り額については、支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均を出し、それを1ヶ月の賃金と見立てて30で割り、出た額の3分の2を1日の給付額とします。
健康保険からの所得保障なので、毎月の給与額から算出されるのではなく、健康保険料を払う時に使う「標準報酬月額」を使って支給額を決定します。

出産手当金はこのように算出されるため、産前休業の代わりにしばらくは有給休暇を使い、有給休暇がなくなるタイミングで産前休業として休む人もいます。
有給休暇の方が出産手当金より額が高いからですね。

雇用保険から支給される「育児休業給付金」と「介護休業給付金」

育児休業、あるいは介護休業中の所得保障となる保険は、雇用保険から給付されます。

雇用保険について、通称「失業保険」と言われる離職した時に次の仕事が見つかるまでの保険給付を一番に思いつく人も多いかもしれません。雇用保険は、育児と介護を理由に長期間の休業を行った場合に、その間の生活保障をする「雇用継続給付」という制度も備えています。

給付の対象になる人は、雇用保険に加入している人で、休業開始前の2年間に、給与支払いのあった日が1ヶ月に11日以上ある月が通算して12ヶ月以上ある人です。1ヶ所の勤め先で12ヶ月雇用保険をかけずに休業に入った人も、それ以前の会社で保険に加入していて被保険者であった期間が12ヶ月取れていればOKとなります。

雇用保険に自分が加入しているかどうかは、給与明細書の雇用保険で保険料が控除されているかどうかチェックすることで確認できます。

気になる給付額ですが、「育児休業給付金」については、休業開始から最初の6ヶ月は、休業開始前の賃金の67%相当、7ヶ月目からは50%となります。
夫婦がともに育児休業を取った場合、そのどちらにも、最初の6ヶ月間は給付率67%で支給されます。

原則子どもが1歳になるまでですが、保育園に入れなかったなどの事情で育児休業の期間を延長すれば、その期間にあわせ、育児休業給付金もこどもが1歳6ヶ月、あるいは2歳になるまで給付を受けられます。

「介護休業給付金」は、休業開始前の賃金の67%相当が通算93日になるまでの期間支給されます。

社会保険料の免除特例

たとえ休業中であったとしても会社には在籍しています。会社に在籍しているということは、健康保険と厚生年金保険(この2つを合わせていわゆる「社会保険」)に引き続き加入していて、毎月の保険料もかかってきます。

社会保険料は通常、給与から天引きする形で会社が社員の負担分を預かり、会社も同額を折半負担して国に納付しています。しかし、休業中は給与が発生しないために、会社は天引きすることもできないし、会社も社員分の負担が続きます。

これについては、育児休業期間中と産前産後休業中は保険料免除の制度があります。
会社が申し出ると、休業した月から休業を終了した日の属する月の前月まで、会社も社員も保険料が徴収されなくなります。(介護休業にはこの免除制度がありません。)

まとめ

育児休業、介護休業はどちらも、子育てや家族の介護という大変な時期であっても、離職することなく仕事と家庭生活が両立できるようにと確立された制度です。
その制度を活用し、円滑な休業と復職のルートを確保するためには、もちろん職場の人たち、家族、周りの理解やサポートが不可欠となります。

会社では、休業する社員の穴埋め、引き継ぎ、復職後の業務分担などを十分に考え、協力していくことが求められます。
家庭では、自分以外の協力者や家事の分担などを話し合い、どんな場面で手伝ってもらうのか、その体制づくりも重要となってきます。

雇用保険や健康保険から支給される保険給付の制度や社会保険料の免除制度も上手く組み合わせながら、誰もが安心して、休業し、復職することができる職場環境、家庭環境を目指していきましょう。

執筆

社会保険労務士法人 岡本&パートナーズ 共同代表社会保険労務士 山本美紀

ホームページ:社会保険労務士法人「岡本&パートナーズ」|大阪府豊中市 (sr-toyonaka.com)

大阪府社会保険労務士会所属。国家資格キャリアコンサルタント。

営業社員、NPO職員、中学高校の英語教師、大学秘書等を経て社会保険労務士に。
大学の授業や行政のハラスメント防止セミナーに登壇。実体験も踏まえ、マタハラを中心としたハラスメント防止の啓発活動を行っている。また、歌う社労士ユニットShallow Seaとして、労働・社会保険諸法令、助成金、働き方改革などのオリジナルソングを歌い、YouTubeやSNS、ライブなどでも活動中。

著書
ひよこの学習塾-社労士教室-編著「社労士の仕事カタログ」中央経済社