【社労士コラム】進んでいますか?有給休暇の取得 〜介護業と年次有給休暇〜

【社労士コラム】進んでいますか?有給休暇の取得 〜介護業と年次有給休暇〜

労働基準法等の改正による“働き方改革”の推進も、2019年4月にスタートしてから早3年目の第4四半期に入りました。
働き方改革とは、大きく言うと「労働時間」と「休暇」の問題を前進させようということでしょう。

皆さんの事業所では、どの程度進んでいますか?
今回は、「休暇」の問題の中でも年次有給休暇をテーマとして一緒に考えてみたいと思います。

休暇と年次有給休暇

“休暇”は誰しも嬉しいものです。
今は新型コロナで思うようになりませんが、本来は、趣味や旅行、スポーツやゲーム、読書や映画など色々としたいことが頭に浮かびます。

ただし、嬉しいのは給与が減らなければの話ですよね。
休めてもその分給与が引かれる、または働く日数分しか給与がもらえない、というのでは手放しで休みを喜べません。
つまり、欲しいのは有給休暇です。

労働義務がある日に休むことを認められるのが、「休暇」または「休業」です。
参考までに、「休暇・休業」の主なものを下表に整理しました。
基本的に無給とされる休暇や休業も、事業所によっては福利厚生等で一部有給扱いになっているものもあるかもしれません。

有給 無給
年次有給休暇
慶弔休暇
新型コロナ対応休暇(*1)
病気休暇(*2)
生理休暇
産前産後休業
育児・介護休業
子の看護休暇
病気休暇(*2)
(*1)新型コロナウイルス感染症に関する母性健康管理措置による休暇
新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応休暇

(*2)病気休暇の有給・無給は、企業によると思われます。

様々な種類の休暇の中、要件を満たすことで毎年一定の日数を与えられる有給の休暇が「年次有給休暇」です。

年次有給休暇の付与は法的義務

ご存じのように、勤め始めて6ケ月が経ち、出勤すべき日数の8割以上出勤していれば、正社員や常勤社員には自動的に10日の年次有給休暇が発生します。
その後、1年毎に年次有給休暇の付与日数は20日になるまで毎年増えていき、20日に達した以後は毎年20日ずつ付与されます。(発生から2年で時効、消滅)

パートタイマーやアルバイトの場合も、週の契約日数等に応じて付与日数は減りますが、年次有給休暇は発生します。

これは、労働基準法に基づいて当然に発生するものであり、しかも罰則付きですから、疎かに取り扱うことは許されません。

労働基準法39条

年次有給休暇に関して、全部で10項目の規定があります。

項番 内容 罰則
6ケ月継続勤務、8割以上出勤者に、継続または分割した10日間を与えなければならない 六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金
以後1年毎に一定の日数を付与(最高20日)
所定労働日数が少ない者への比例付与
労使協定による時間単位有給付与
時季指定権とその変更
労使協定による5日を超える日数の時季の定めが可能
10日以上付与者は、5日につき時季を定めて1年以内を取得させること 三十万円以下の罰金
(⑦において)通常の有給消化が5日を超えた場合は、時季を定める必要はない 六箇月以下の懲役又は三十万円以下の罰金
有給休暇分の賃金の基準
労災、育児介護、産前産後の休業は出勤したものとして扱う

年休の繰り越し

当年に付与された年次有給休暇が余った場合、その残日数は翌年度に繰り越されます。
この繰り越された有給休暇に関して、前年度の繰り越し分から消化させるか、あるいは当年度分から先に消化させるかは事業所によって異なります。

たとえば、従業員が万一のために最大40日分の有給休暇を溜めていた場合、何かの時に40日丸々有給休暇を使われると仕事が回らなくなることも予想されます。
ある事業所では、年次有給休暇を積み残さないよう、当年度分から使うように就業規則で定めています。

しかし、従業員からすると、当年度の使い残しがあって翌年度に繰り越したとしても、また翌年度の発生分からしか有給休暇を使えません。
当年度分を使い切った後でないと繰り越し分を使えないため、時効で流れる日数が増えてしまいます。

そのため、多くの事業所では、特に就業規則に定めをせず、慣例として有給休暇は古いものから使い、消滅してしまう日数が多くならないようにしているのではないでしょうか。

年次有給休暇の取得は従業員の権利

年次有給休暇は、従業員には当然に保障された権利ですから、本来、有給休暇を取得することに躊躇する必要は全くありません。

年次有給休暇は、従業員が請求した時季に与えることが基本ですが、逆に言えば本人が請求しない場合は無理に与える必要はないとして、事業主もあえて年次有給休暇の取得を勧めず、むしろ請求しなければ良いという考えもありがちでした。

しかし、長時間労働によるストレスや疲れの蓄積等により、仕事の効率が落ちたり病気のリスクが増して、医療費の損失や企業の戦力にもマイナスになります。
働き方改革の推進の中で、時間外労働の削減と共に、年次有給休暇の取得促進が図られています。

年休の取得方法

方法(種類) 内容 労使協定の締結
計画年休 取得日を決めて有給休暇を与える。ただし、5日は従業員が時季指定できるようにすること。 必要
半日単位年休 原則は1日単位の取得だが、従業員が希望し使用者が同意すれば可能。 不要
時間単位年休 年に5日を限度として時間単位での取得が可能。 ただし、5日取得義務にはカウントされない。 必要

労使双方の事情も踏まえて、少しでも休みの取得が進むようにと考えられたのが、労使協定による時季指定や半日・時間単位での取得です。

ただし、本来の労働義務から免除する(完全に休む)という目的と、本人の時季指定を基本とする年次有給休暇の趣旨は最大限守られなければなりません。
そのため、最低5日は全日かつ本人の時季指定を確保することが求められています。

取得できるのは労働義務のある日

有給休暇とは
「所定の休日以外で、賃金の支払いを受けて仕事を休める日」=労働義務を免除される日

そのため、元々休みである所定休日に有給休暇を組み込むことは出来ません。

たとえば、訪問介護の事業所(特に登録型のヘルパーが居る事業所)では、労働義務がある日=利用者へのサービス予定を組んでいる日です。その日に従業員が有給休暇を取得するとサービスに穴が空いてしまいます。
他のヘルパーや常勤者が交代できれば良いのですが、手配が難しいケースもあります。

そういう場合、翌月の勤務表を作成する際に、サービス予定が無い日を仮の出勤日としておき、その日に有給休暇を取得させるという方法を取っている事業所もあります。

退職時の残有給消化について

何らかの理由で退職者が出る場合、残っている年次有給休暇を使い切ってから退職する例があります。
むしろ退職日が先に決まり、残った有給休暇を使い切るために逆算をして勤務しなくなり、業務の引継ぎや人のやり繰りに困るケースも散見されます。

まず、残有給を使い切りたいと従業員が申し出た場合、それを阻止することはできません。
どうしても退職日まで勤務してもらわないと業務上回らない、という場合は有給休暇を買い取って勤務してもらうこともあり得ます。ただ、それも従業員の合意が必要です。

そう考えると、あらかじめ有給休暇をコストと考えて組み込んでおく方が無難です。
そして、どうせコストであるなら、年次有給休暇の100%消化を進めて、働きやすい事業所に変えていき、プラスのコスト=投資に替えたいですね。

年5日の年次有給休暇の確実な取得

年次有給休暇は、原則として、従業員が請求する時季に与えることとされていますが、万が一のために従業員自身が年次有給休暇を使わずに溜めていたり、職場への配慮やためらい等の理由から、取得率が低い現状にあり、年次有給休暇の取得促進が課題となっていました。

働き方改革にともなう労働基準法の改正により、2019年4月から、年5日の年次有給休暇を取得させることが使用者の義務となりました。

年10日以上の年次有給休暇が付与されるすべての従業員に対して、付与した日(基準日)から1年以内に、使用者は「労働者自らの請求」、「計画年休」および「使用者による時季指定」のいずれかの方法で、付与日数のうち5日の年次有給休暇を取得させる必要があります。

「年次有給休暇は2年間有効だから、2年以内に取得させれば良い」という考えは通用しません。

年次有給休暇管理簿

有給休暇取得の義務化にともない、有給休暇の管理は、それまでの残日数管理だけでは不十分となり、「年次有給休暇管理簿」の作成が義務付けられました。

使用者は、基準日(付与日)、消化日と日数、残日数といった年次有給休暇の記録を従業員ごとに管理しなくてはなりません。

年次有給休暇の取得率

令和3年の日本全体での平均取得率は56.6%です。企業規模が小さいほど取得率は低くなっています。

産業別で見ると、最低の宿泊業、飲食サービス業(45.0%)から、最高の電気・ガス・熱供給・水道業(73.3%)までバラツキがあります。「医療・福祉」は58.0%と、平均より若干高くなっています。

皆さんの会社ではいかがでしょうか?
そもそも、付与日数の平均と消化日数の平均が、事業所ごとにすぐに出せない状況は論外ですね。

10日以上付与の従業員の平均取得日数が何とか5日ぎりぎり、という事業所もあるかもしれません。
いや、その5日取得がまだ厳しいんです、という事業所もありました。

なぜ有給休暇の取得が進まないのか?

介護事業所を例にすると、いくつかの理由が考えられます。

  1. 第一は、人手が不足して(採用できず)いて、なかなか有給休暇を与えられない。
  2. 第二は、収支が厳しくて、有給休暇を与えるだけの経営的な余裕が無い。
  3. 第三は、従業員がなかなか有給休暇を請求しないから進まない。

第一の理由について、確かに、介護業界は人手不足ですが、そういう中でも何とか人手を確保して事業を拡大している会社もあります。
なぜ自分の会社は人が来ないのか、どうすれば人に来てもらえるのか、徹底して考えて対策を打っていく必要があるでしょう。
従業員の定着や新規採用が進むような職場運営や処遇の改善、休日の増加などを検討してみましょう。

第二の理由に関して、経営的な余裕が無いから有給休暇を請求してもらっては困る、という考え方はもう時代遅れと言えます。
コンプライアンスや従業員満足の視点も入れて“経営”を考えて行かなくては、会社の継続・発展は難しいです。
どこか他にコストを削減すべきことはありませんか?今一度見直してみましょう。

そして、第三の理由ですが、有給休暇を取ると他のスタッフに負担がかかって休みづらい、と思っている従業員もまだまだ多いことでしょう。
しかし、そこは会社として、事業所として、皆で協力し合いながら少しずつ有給休暇の取得率を上げて行こうというメッセージを出していくことも必要です。
労使協定で時季指定による有給休暇の取得を進めることも前向きに考えたいですね。

まとめ

有給休暇の取得についてみてきましたが、最後に北欧フィンランドの有給休暇事情を紹介します。

『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(堀内都喜子著、ポプラ新書)という本を読んだことがありますか?著者は、フィンランドの大学院で修士号を取得し、現在フィンランド大使館で広報部のプロジェクト・コーディネーターに携わっている人です。

フィンランドは、残業は基本的に無し。有給休暇は100%消化。
しかも労働生産性の国際比較ではフィンランドは日本の1.4倍高い国です。

フィンランドでは、『「休むことは生産性のためにも必要」という認識を皆が持ち、有給は使い切る』のが当たり前で、『夏休みの後には、リフレッシュしたフィンランド人がものすごい集中力で仕事をこなしていく』とのこと。
仕事の生産性を上げるために、介護の分野では、現場にデジタル機器やネット通信を多数導入し、遠隔介護や記録の電子化に取り組んでいるそうです。

すぐに日本も、フィンランドのように残業無しで定時に帰り、夏はほとんど皆が4週間の夏休みを取る、などということは現状ではなかなか難しいでしょう。

日本の介護業では、必ず配置基準に則った人員を配置しなくてはならず、人によるサービスであるためサービス時間の拘束からは逃れられません。
生産性を向上させても有給休暇の完全消化は難しい面があります。

しかし、“人員不足だから休めない→休めないから人が来ない→辞める”という悪循環を続けていては、事業の発展どころか継続も困難になってしまいます。
ただちに有給取得率100%の達成が難しくとも、昨年の取得率よりは今年、今年よりは来年、と少しずつ目標をステップアップさせてはいかがでしょうか。

執筆
岡崎社会保険労務士事務所社会保険労務士 岡崎 晃
ホームページ:http://www.roum-kenkyu.jp 厚生労働省「働き方改革推進支援センター」派遣専門家。
社会福祉士・精神保健福祉士。
民間企業において、営業、広報、人事労務、物流、情報システム、介護など部門の管理職として、事業・経営・人事に携わる。65歳で退職と同時に社労士事務所を開業。
労務相談や人事制度設計、助成金活用提案等を得意としている。
感想・ご意見は:info@roum-kenkyu.jp
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